おうち陶芸でもっと作品に個性を!初心者向け「釉薬」の選び方と使い方
おうち陶芸を楽しんでいる方の中には、手びねりや成形、素焼きまでは経験したけれど、「もっと作品に色や個性を出したい」「あのつるっとした質感はどうやって出すのだろう?」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。その秘密の一つが、「釉薬(ゆうやく)」です。
「釉薬」と聞くと、何だか専門的で難しそう…と感じる方もいるかもしれません。確かに奥深い世界ですが、初心者の方でも扱いやすい釉薬を選び、ポイントを押さえれば、自宅でも作品の表現を大きく広げることができます。
この記事では、おうち陶芸で作品に色や質感を加えるための「釉薬」について、その基本的な知識から、初心者の方におすすめの選び方や使い方までを分かりやすくご紹介します。
そもそも「釉薬(ゆうやく)」とは?
釉薬とは、陶磁器の表面に塗るガラス質の粉末を水に溶かしたものです。これを素焼きした器などに塗り、本焼成(一般的に1200度以上の高い温度で焼くこと)を行うことで、ガラス状に溶けて器の表面を覆います。
なぜ作品に釉薬を使うのでしょうか?
釉薬を使うことには、主に以下の3つの目的があります。
- 強度を高める: 素焼きの器は水を吸いやすく、衝撃にも弱い状態です。釉薬をかけて焼成することで、器の強度が増し、日常使いにも耐えられるようになります。
- 防水性・防汚性を与える: 釉薬がガラス状に溶けて表面を覆うことで、水や汚れが染み込みにくくなります。これにより、食器などとして衛生的に使うことができるようになります。
- 美しさを表現する: 釉薬の種類や厚み、焼き方によって、作品に様々な色や光沢、質感を加えることができます。マットな質感、つるっとした質感、貫入(ひび割れ模様)、幻想的な色合いなど、表現の可能性が無限に広がります。
初心者さんにおすすめの釉薬の選び方
釉薬には非常にたくさんの種類があり、それぞれ特性が異なります。初心者の方がまず挑戦するなら、以下の点に注目して選ぶのがおすすめです。
- 焼成温度: ご自宅で焼成炉をお持ちでない場合、多くの場合は外部の窯元や陶芸教室に焼成を依頼することになります。依頼先の焼成温度(一般的には還元焼成か酸化焼成か、何度で焼成するか)に合わせて釉薬を選びましょう。市販の釉薬には、焼成温度が明記されています。
- 扱いやすさ: 初心者向けの釉薬として市販されているものの中には、調合済みの液状タイプで、そのまま使えるものがあります。粉末から自分で調合する釉薬もありますが、最初は手間のかからない液状タイプから始めるのが良いでしょう。
- 色のサンプル: 釉薬は、焼く前と焼いた後で色が大きく変わることがほとんどです。購入する際は、必ず焼成後の色見本(サンプル片)を確認しましょう。同じ釉薬でも、粘土の種類や塗り厚、焼き方によって色が変わることもあるため、あくまで目安として参考にします。
- 少量パック: 最初は少量のお試しパックや、複数の色が入ったセットから始めるのがおすすめです。色々な釉薬を試してみて、自分の作風に合うものを見つけていくと良いでしょう。
特定の種類の釉薬としては、以下のようなものが比較的扱いやすいとされています。
- 透明釉: 粘土の色や模様を生かしたい場合に最適です。作品に光沢と防水性を与えつつ、素地の表情をそのまま楽しめます。
- 乳白釉: 優しい白色になり、様々な粘土と相性が良いです。安定した発色が得られやすいです。
- 鉄釉(柿釉や飴釉など): 鉄分を含む釉薬で、落ち着いた茶色や柿色、飴色などに発色します。比較的丈夫で、昔からよく使われています。
まずは、少量でこれらの基本的な釉薬を試してみてはいかがでしょうか。
釉薬の基本的な使い方
釉薬を塗る(施釉:せゆう と言います)方法はいくつかありますが、ここでは初心者の方にも取り組みやすい代表的な方法をご紹介します。施釉は、素焼きが終わった、完全に乾燥した状態の作品に行います。
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施釉前の準備:
- 素焼き作品の表面の埃やゴミを、乾いた布や刷毛で丁寧に払います。
- 釉薬は使用前にしっかりと混ぜます。沈殿していることが多いので、容器の底からしっかり撹拌しましょう。
- 釉薬の濃度を確認します。濃度が高すぎると厚塗りになりすぎ、低すぎると薄塗りになりすぎてしまいます。釉薬メーカーの推奨する濃度を参考に、水で調整します。刷毛で持ち上げたときに、釉薬がとろりと流れ落ちるくらいの濃度が目安です。
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施釉方法(浸し掛け・掛け掛け・刷毛塗り):
- 浸し掛け(どぶ漬け): 作品全体や一部を釉薬に浸す方法です。均一に施釉しやすいですが、ある程度の量の釉薬が必要です。器の内側と外側で分けて浸すなど、工夫して行うことができます。
- 掛け掛け(流し掛け): 作品の上から釉薬を流し掛ける方法です。釉薬の濃淡や流れ落ちる模様を楽しむことができます。
- 刷毛塗り: 釉薬を刷毛に含ませて、作品の表面に塗っていく方法です。比較的少量から始められ、細かい部分にも塗ることができます。ただし、刷毛跡が残りやすいので、できるだけ均一になるように、同じ方向に丁寧に塗っていくのがポイントです。重ね塗りをする場合は、一層目が乾いてから行います。
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高台(器の底)の処理:
- 釉薬は焼成時にガラス状に溶けるため、器の底(高台)に釉薬が付いたまま焼くと、棚板にくっついてしまいます。必ず、高台部分や棚板に直接触れる部分の釉薬を丁寧に拭き取ります。釉拭き用のスポンジや布を使うと便利です。
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施釉後の乾燥:
- 釉薬を塗った作品は、本焼成の前にしっかりと乾燥させる必要があります。風通しの良い場所で、数日から1週間程度かけてゆっくりと乾燥させましょう。
釉薬なしでも楽しめる!作品に個性を出す方法
「釉薬はまだハードルが高いな…」と感じる方や、「粘土本来の風合いが好き」という方のために、釉薬を使わずに作品に個性を出す方法もいくつかあります。
- 化粧土(けしょうつち): 白や色付きの液状の土を、素地の上に塗ったり掛けたりして装飾する方法です。焼成すると土の質感や色がそのまま現れます。掻き落とし(化粧土を一部ひっかいて下の素地を見せる技法)などの装飾も可能です。
- 焼き締め: 釉薬をかけずに、高い温度でしっかりと焼き締める方法です。土の持つ色合いや質感がダイレクトに現れ、素朴で力強い風合いの作品になります。水漏れしにくくするための工夫(焼成温度を高くする、土の選択など)が必要です。
- 装飾技法: 素焼きの前に、スタンプ、彫刻、象嵌(ぞうがん:素地に模様を掘り、色の違う土などを埋め込む技法)などの技法で作品に模様をつけることでも、釉薬を使わずに豊かな表現が可能です。
釉薬に挑戦する上での不安Q&A
- Q: 失敗したらどうなりますか?
- A: 釉薬の厚みが不均一になったり、流れすぎたり、思っていた色と違ったりすることはよくあります。これも陶芸の味として楽しむことができますし、再度釉薬を塗り直して焼き直すことも可能な場合があります(ただし、状態によります)。まずは「練習」として気軽に挑戦してみましょう。
- Q: どんな道具が必要ですか?
- A: 基本的には、釉薬を混ぜるための容器(バケツなど)、施釉するための刷毛やトング(作品を掴む用)、高台を拭くためのスポンジや布があれば大丈夫です。釉薬の種類によっては、専用の攪拌機や比重計があると便利ですが、最初は必須ではありません。
- Q: 釉薬はどこで買えますか?
- A: 陶芸材料を扱う専門店のオンラインショップや実店舗で購入できます。初心者向けのセットなども販売されていますので、探してみてください。
まとめ
おうち陶芸で作品作りに慣れてきたら、ぜひ「釉薬」の世界に足を踏み入れてみてください。釉薬を使うことで、作品の表情が驚くほど豊かになり、陶芸の楽しみ方がさらに広がります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、市販の初心者向け釉薬から試したり、少量ずつ色々な種類を試したりしながら、焦らず自分のペースで挑戦していくことが大切です。失敗を恐れずに、どんな色になるかな?どんな質感になるかな?とワクワクしながら取り組んでみましょう。
作品に釉薬をかけて、あなただけの特別な器を完成させる喜びを、ぜひ自宅で味わってみてください。